【ご紹介】「サイエンスコミュニケータだより vol.7」 サイエンスコミュニケータの声(拡大版)
こんにちは!科博SCA広報委員の武田です。
いつも「サイエンスコミュニケータだより」をご覧いただきありがとうございます。
2018年4月に「サイエンスコミュニケータだより」7号が発行されました。
今号のおもて面「サイエンスコミュニケータの声」は,産総研発ベンチャー地球科学可視化技術研究所 の芝原暁彦さんに執筆していただきました。いろいろな写真もお寄せくださったのですが,紙面の都合で載せられないものもありました。
そこで,こちらでは紙面に載せられなかった写真も含めた“完全版”「サイエンスコミュニケータの声」をご紹介します。
紙面はもう1ページあり,こちらの方には科学のお芝居やトークイベントのご紹介もありますので,ぜひ紙面版もごらんください!
【サイエンスコミュニケータだより vol.7 紙面版はこちら】
博物館からイノベーション!
~博物館学とものづくり技術のハイブリッドが創出する未来~
皆様はじめまして。古生物学者の芝原暁彦と申します。微化石の研究や、地球科学情報の3Dデータ処理の研究などを行っています。私は2016年に、「地球科学可視化技術研究所(地球技研)」というベンチャーを立ち上げました。博物館と三次元造形をテーマとしており、研究所発のベンチャーとしてはかなりニッチな分野に属するのではないかと思います。
私は筑波大学で学位を取得したのち、2011年から茨城県つくば市にある産業技術総合研究所(産総研)の地質標本館という博物館で学芸員として勤務していました。サイエンスコミュニケータ養成実践講座を受講したのもこの時期です。博物館で働いていると、自分の専門分野以外にも学ぶことが沢山あり、それを他の研究者はもとより幼稚園児~大学生、リタイアされた方々など、分野や職業を問わずあらゆる人々に解説しなければならない立場となります。そこで気づいたのが、時間や空間の認知度は人によって個人差が非常に大きいという事でした。例えば地図や地質図を読む力、億年や万年といった時間スケールの感じ方などなどです。
そこで思いついたのが、博物館に3D造型技術を導入し、精密な地形や地下構造の模型を作り、その上に情報を精緻なプロジェクションマッピングで図面を投影し、多人数で観察する際の空間スケールを統一し、地質情報を分かり易く可視化することでした。投影する画像は地形に合わせて歪み補正を行う必要がありますが、この手法で特許を取得できたため、これをもとに上記のベンチャーを立ち上げたわけです。2018年3月には、日本全国の地形を再現した世界最大級のプロジェクションマッピング模型を設置しました。
地質標本館第一展示室に設置した、全長約9mのプロジェクションマッピング型地質模型(北海道~沖縄、1/34万スケール)。地形模型上に地質図や衛星画像を投影、さらに鉄道網など各種インフラの情報を多重投影可能。 (写真をクリックすると大きなサイズで表示されます)
私は、北極海や北海道の海底堆積物から有孔虫と呼ばれる微化石を抽出し、過去数万年間の環境を復元する研究もやっておりますが、こうした時系列の情報もいずれは上記のシステムに映し出したいと考えております。
また地球技研では、実体物の作成だけでなく、化石や地形の3Dデータの取得も行っています。具体的にはレーザー測量やフォトグラメトリーといった技術を用いて、物体の構造を数億点の座標値の塊(点群データ)にする技術です。これを用いれば、博物館同士で相互に模式標本のデータをやりとりしたり、あるいは発掘現場から送られてきたデータを研究所で3Dプリンタにより実体化したり、ということも可能になります。つまり、地球技研はVR(Virtual Reality)とRV(Realized Virtuality、実体モデルによる表現)※の両方に対応したベンチャーといえます。
左:アンモナイト標本(Caly coceras orientale, 地質標本館登録標本 GSJ F3237)の3Dモデル、幅約15 cm。 右:一見すると写真のようだが、その実体は座標と色の情報を併せ持つ数百万点の「点群データ」をもとに作られている。 (写真をクリックすると大きなサイズで表示されます)
博物館はただ研究やキュレーションを行うだけの施設ではなく、そこで蓄積された多彩な研究成果を、次世代の可視化技術で見えやすい形でアウトプットし、あるいはそれらをどんどん組み合わせることで、新しい概念や技術を作り出すイノベーションの苗床になりうる施設であると私は考えています。
このように様々な分野を組み合わせることで、研究者、学芸員、サイエンスコミュニケータはもっともっと自由に活躍できることが分かりました。ご興味のある方は、つくば市の産総研内にある地質標本館や、地球技研の研究室をぜひご訪問ください。一緒に次世代の博物館についてお話しさせて頂ければ幸いです。
※参考文献
山下樹里(2006)手術可能な精密モデルとその応用. 日本コンピュータ外科学会誌, 8, no. 2, p.71-75.
【執筆者紹介】
芝原暁彦
国立科学博物館サイエンスコミュニケータ 養成実践講座 SC1 修了(10 期)。産総研発ベンチャー地球科学可視化技術研究所所長、 明治大学サービス創新研究所研究員。